1963年に発売された本作は全8曲の10インチLPで、東芝音工といえばの赤盤仕様です。モノラル(JPO-1288)とステレオ(JPO-3086)の両方がリリースされていますが、品番が異なります。いずれにせよ帯とライナーが付いた完品であることが高額査定の必須条件です。
なお2005年にはVIVIDからCDで再発されたのですが、ステレオ音源はマスターテープを紛失したためにアナログ盤からのマスタリング。モノ音源はマスターテープの劣化によりまるでブートレグのような音質で、双方とも満足できるようなサウンドではありません。その意味でもオリジナルのレコード盤を聴く価値が十分にあると言えるでしょう。
一般的には60年代前半の「和製ポップス」歌手か、あるいは”人形の家”などの歌謡曲シンガーとして認知されることも多いミコ(弘田三枝子)ですが、じつはジャズ・ヴォーカル作品も多くリリースしています。90年代のフリーソウル~レア・グルーヴという流れの中で、ミコの『Jazz Time』や『In My Feeling』など70年代の諸作が和ジャズ・ファンク的視点で再評価されたりもしましたが、『弘田三枝子スタンダードを唄う』はその原点ともいえる、彼女が初めてジャズに取り組んだアルバムです。
当時16歳というのが信じられないほどのパワフルで堂々としたミコのヴォーカルは、パッと聴いただけではとても日本人だとは思えません。とりわけ、米軍キャンプ時代からの十八番だったという”Alexander’s Ragtime Band”のスロウからアップへと切り替わってからの圧倒的なグルーヴ感は鳥肌もの。”On The Sunnyside Of The Street”ではもはやジャズを飛び出してエルヴィスばりの歌唱をキメているのも凄いです。ちなみに”It’s A Sin To Tell A Lie”でアレンジを手掛けているのは、フランク・シナトラとの仕事でも有名な巨匠、ネルソン・リドル。