お世話になります。セタガヤレコードセンター、買取担当です。
さて、本日も最近買取させていただいたレコードの中から厳選して一枚をご紹介させていただきます。
・アーティスト / フー・ツォン
・タイトル / ショパン/4つのバラード集
・型番 / 蘭CBS/デジタル録音 品番IM 42207
■参考買取価格 / ¥3,000
フー・ツォン(1934年–2020年)は、中国・上海出身のピアニストで、20世紀後半に国際的に活躍した音楽家です。1955年、ショパン国際ピアノコンクールで第3位に入賞し、マズルカ賞も受賞。特にショパン作品における繊細で詩的な表現で高く評価されました。その後、活動の拠点をヨーロッパに移し、イギリスを中心に世界各地で演奏活動を展開。バッハやモーツァルト、ドビュッシーなどの作品にも独自の解釈で取り組みました。温かみと深い内面性を兼ね備えた演奏は、多くの聴衆や音楽家に影響を与えました。教育者としても知られ、後進の育成にも尽力。2020年にロンドンで亡くなりましたが、その演奏は今も多くの人々に深い感銘を与え続けています。
本日ご紹介のレコードは「フー・ツォン/ショパン/4つのバラード集」です。
フー・ツォンによるショパン演奏は、間違いなくショパンへの深い理解と愛情に裏打ちされたものであり、聴く者の心に強く訴えかけてきます。最初に耳にした瞬間から「深淵」という言葉が浮かぶような、圧倒的な音楽の深さが感じられます。たとえば《バラード第1番》冒頭のC音には、闇に引き込まれるような力が宿っており、リマスターされた音源によってその意図がより明瞭に伝わってきます。深く沈み込むような低音、空気を裂くような高音、そして独特の美しい倍音。そのすべてが「ショパンとは何か」という問いへのひとつの答えになっています。特に夜想曲やマズルカでは、他に類を見ないほどの暗さと深さが表現され、フー・ツォンの詩的な感性が存分に発揮されています。彼自身も「ショパンは史上最高の作曲家とは言えないが、最高のアーティストだった」と語っており、その繊細な感受性は東洋人の心にも深く沁みわたるものだと述べています。
このたび1978年から1984年にかけて録音されたショパン作品(ピアノ・ソナタ、練習曲、前奏曲など)が初めてCDとして集大成されたことは、ピアノ音楽を愛する者にとって大きな喜びです。フー・ツォンはそのキャリアの豊かさに比して録音の数が極めて限られており、特にこれらのショパン録音は自らのプロデュースによるもので、地域ごとに異なるレーベルからリリースされたこともあり、これまでその全貌を捉えるのが難しい状況にありました。日本では一部が廉価盤として短期間流通したのみで、その後はコレクターズ・アイテムとして高値で取引されることもありました。
弱音部における静謐な詩情と、力強く情熱的なクライマックスとの対比が見事に描かれています。タッチの巧みさ、倍音を美しく保ちながら響きを紡いでいくその技術、そして音の間の連続性──いずれもがショパンの本質に迫るものであり、心に深く残る演奏です。
マルタ・アルゲリッチがショパン・コンクール優勝時に彼の録音に影響を受けたと語り、中国のラン・ランがフー・ツォンをロールモデルとして称賛するなど、音楽家たちからも厚い信頼を寄せられた彼のショパンは、今こそ広く再評価されるべき遺産といえるでしょう。ショパンが亡命を余儀なくされた時代背景と、フー・ツォンの生き様が重なる瞬間さえ感じられる、感動的な演奏です。ピアノとショパンを愛するすべての人に、ぜひ聴いていただきたい名盤です。
本日ご紹介の盤は1975年にRCA RED SEALから発売された全集です。
本盤は大変希少な再初期盤で中古市場の価格は高騰傾向です。
セタガヤレコードセンターでは、フー・ツォン/ショパン/4つのバラード集を買取強化中です。帯付き、状態良好で現在の参考買取価格は¥3,000とさせていただいております。
大切なコレクションをご処分の際はぜひセタガヤレコードセンターにお声掛けくださいませ。