ジャパニーズ・ロックの歴史においてこれほど”伝説”という言葉が相応しいバンドもないであろうスピード・グルー&シンキ。
彼らのレコードはずいぶん昔から稀覯品としてマニアの間で高額取引されていました。その人気を反映してか、2019年にはついに正規の国内盤アナログが再発(WQJL128/9)されましたが、だからといってオリジナル盤の価値が揺らいだわけではありません。とくに、セピア色の古びた人物写真がデザインされた(じつにセンスの良い)全面帯カバーなどの付属物が揃った完品であれば、相当な高額査定になることは必至です。
パワー・ハウス~フード・ブレインで勇名を馳せたギタリストの陳信輝が、ゴールデン・カップス~フード・ブレインの凄腕ベーシストだった加部正義、フィリピンのミック・ジャガーと呼ばれていたドラマー&ヴォーカルのジョーイ・スミスと組んだハード・ロック・トリオです。
1971年にアルバム『前夜』でデビューしますが、本作はセカンドにしてラスト・アルバムとなる2枚組の大作です。病気で離脱した加部のベース参加は2曲のみで、残りはフィリピンから助っ人にやってきたマイケル・ハノポールが弾いています。ちなみにスミスとハノポールは帰国後に、辺境ヘヴィ・サイケ好きにはよく知られたバンド、Juan De La Cruz(ファン・デ・ラ・クルス)に参加しています。
スピード・グルー&シンキは同時期のマウンテンやフリーなどを彷彿とさせるブルージーなハード・ロックが身上ですが、デビュー作よりもさらに多彩さを増した本作では、ゲストに迎えた元ワイルド・ワンズの渡辺茂樹が奏でるチェンバロだけの曲や、ムーグ・シンセが飛び交う初期タンジェリン・ドリームのような実験的ナンバーなども組み込んだ自由奔放なアプローチが大きな魅力となっています。