前回ではジャケット自体の校正付き色校をさくっと見ていただきましたが、今回はきっと更に珍しい“版下”自体、厳密には版下より前のデザイン段階の成果物を見ていただきたくの第36回です。
1985年に実用化された「DTP (Desktop publishing)」により、版下の制作から印刷まで様々な工程に分かれていた商用印刷における作業が、パソコン1台で行えるようになりました。それまではデザイン自体も立体感を持った物として製作する必要があった訳です。
今回ご紹介するのはサックス奏者の清水靖晃氏を中心に、笹路正徳氏、土方隆行氏、渡辺モリオ氏、村川ジミー聡氏、山木秀夫氏で組まれた、ジャズ・フュージョン~プログレッシブ・ロックと従来のカテゴライズから離れたグループ、マライアのセカンド・アルバム“アウシュビッツ・ドリーム”です。早速見ていきましょう。
こちらは表のジャケット(左)とその前のデザイン段階(右)です。
右上の十字架は赤く光沢感のあるシールでしょうか。出来上がりのジャケットでは全体モノクロ仕上げとなっており(文字の影はカラーです)、この赤色は最終的には残っていません。
そして右上のマッチは実物のブックマッチが1つ貼り付けられています。この焦げも実際に台紙を焦がしてありますね。
そして写真部分にあるガラスの割れたような加工は、薄い割れたプラスチック板を写真の上に貼ることで表現しています。
文字デザインはこの時点では入っていません。
そして裏面のジャケット(左)とその前のデザイン段階(右)です。
こちらも右上には赤い十字架の光沢シール。そして焦げ跡はあるもののブックマッチ2本は剝がれて欠損しております。
写真中央の割れ加工はプラ板で。といった具合に表面と同様の手法にて表現されています。
今では全てパソコンで対応してしまうようなこれらのデザインを実際に3Dの奥行きを持った“モノ”として作っていたっていうのは、今となってはかなり趣があるというか、驚きをもって受け入れられそうです。最早アートの造形物。
このような造形物が“全てのレコード”で作られていたと思うと、レコードのジャケットの1つ1つがアートであると言ってしまっても過言ではないように思えますね。レコードはアート。
以上、お付き合いいただきありがとうございました。