Atlantic Records <アトランティック・レコーズ>は初代オウナーであるアーメット・アーティガンを中心に設立されました。アーティガンの父はトルコ人で駐米大使をしており、黒人音楽の魅力にとりつかれたアーティガンはトルコ大使館でデューク・エリントンやレスター・ヤングのコンサートを開催。そして47年にAtlantic Recordsを創立。その初期はR&Bやジャズをカタログとし、50年代から60年代にかけてのサザン・ソウルの隆盛を牽引し、レイ・チャールズ、アレサ・フランクリン、ウィルソン・ピケット等を輩出しました。ジャズ・ミュージシャンでAtlantic初期を代表するアーティストといえば、やはりThe Modern Jazz Quartetでしょうか。Prestigeから移籍して56年の“Fontessa”が移籍後の初作です。
この“Fontessa”のセンターラベルですがMONOは地が黒一色に銀文字、STEREOは地が緑一色に黒文字となっています。これはAtlanticの12インチ・サイズLPでは2番目のラベル・デザインとなっており、初代は黄色地となっていました。この黒、若しくは緑の通称「一色ラベル」は、Atlanticの1000番台では「1212番」から「1332番」で使用されました。またほぼ「左HIGH FIDELITY」ですが、後期には「右HIGH FIDELITY」となります。
そして、59年から60年の一時期のみ、この一色ラベルの再発用に使用されていたと“言われていた”のが「ブルズアイ」若しくは「ピンホイール」と言われるラベルです。実際、今でもかなり謎のラベルなのですが、基本的には既に一色ラベルでリリースされているタイトルのみに使用されているため、そのように再発専用ラベルと言われていましたし、かつては誰もがそうだと思っていました。少し言い方を変えてみましょうか。正確には「基本的には既に一色ラベルでリリースされている“はず”のタイトルに使用されているものしか“見つからない”」ということです。
「全てのブルズアイ・ラベルのタイトルは一色ラベルの再発」であるという命題の真偽は、その対偶の「一色ラベルの再発でないものはブルズアイ・ラベルではない」の真偽と同値です。対偶を言い換えると「初版盤にブルズアイ・ラベルは存在しない」となります。誰もがそうだと思っていました。しかし、見つからないんです。ブルズアイ・ラベルの存在は誰もが知るところなのに一色ラベルの現物が。
「Charlie Mingus / Blues and Roots (1305番)」
「John Coltrane / Giant Steps (1311番 STEREOのみ)」
「John Lewis / Improvised Meditations and Excursions (1313番)」
「Ornette Coleman / Shape of Jazz To Come (1317番)」
「Wilbur DeParis / That’s a Plenty (1318番)」
上記のタイトルに一色ラベルが見つかっていません。以前であれば、自分のコレクションの中で、レコード愛好家の仲間内のなかで、更に広げてもレコード屋さんで売っているのを見たことがない、といった範囲での知覚のみでしたから「見たことないけど珍しいんだろう」という捉え方も出来ましたが、このインターネット時代においてはこうなっています。
「世界中の誰も見たことがない」。
後半へ